リスクアセスメントとリスクマネージメントの違いについて説明するとスタートアップの精神が説明しやすくなる

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man in black tank top hanging on a rope

リスクアセスメントとリスクマネージメントはひとによっては同じ言葉のように捉えているひとがいたりもするのだが、当然意味合いは違う。 とりあえず教科書的に言っておくと、

リスクアセスメントとは「assess=評価する」のとおり、リスク自体を過去の経験や賢人のノウハウから認識して定量化および資産化することである。
リスクマネージメントはそれを「manage=管理する」ことである

つまりアセスメントがあって、その後にマネージメントがあるわけだ。

あ、ちなみに端折ってしまったがリスクというのは一般にはリリースした製品によって発生し得るトラブルや事故、その他損害のことだが、ここではちょっと気持ち拡張した、抽象的な概念として聞いてもらえると理解により近づくように思う。

アセスメントにおける評価の仕方が甘ければマネージメントは機能しない。
例えば、アセスメントは発生頻度と重篤度の掛け算で測るのが普通だと思うが「発生確率は極めて低いので大丈夫だろう」と思っていたら、実はそれなりの頻度で発生する可能性があった場合、それによる被害をコントロールすることは極めて困難になる。 逆にアセスメントが適切であったとしてもマネージメントの考え方が楽観的であれば、例えば「不良率5%までは既存のカスタマーサポートスタッフで対応できる」と高を括っていたら想定よりも個々の対応に手こずったため顧客対応を捌き切れず、市場に大きな混乱をもたらした、なんてこともあり得る。

さて、ここまでは品質管理の上での豆知識程度の代物だが、スタートアップの運営に当てはめて考えるとなかなか妙を得ていると思った。

試しにネガティヴに適用して考えてみると、

スタートアップはアセスメントもマネージメントもガバガバな組織だ。
メンバーの経験が浅い上に計画性が低く、常に行き当たりばったりだし、それらに即時対応さえできればそれでイケてると思っている。
顧客に対して提供できるプロダクトの品質がそもそも低いが、それを「成長のチャンス」という都合の良い言葉で置き換えて、結局は顧客に我慢させている。
だからごくたまに運良く成功する輩が出る以外は大抵クソミソになって市場から消えていくではないか。
それもこれも最初からリスクのことを甘く見ているからだ。

とか。 自身がスタートアップ界隈にいる身の上にしてはなかなか見事にこき下ろすことができたものだと感心した。笑

確かに、外から見たらそう言われても仕方がない、社内に入っても、、、「そう言われても仕方ない」としか思えないスタートアップが相当数いることは否定しない。
しかしそれはそれで矜持というか哲学のようなものを見いだすことができるのだと思う。

スタートアップはアセスメントの評価軸を対数表示のつもりで眺め、マネージメントに「成長分」を盛り込む特殊な組織なのだ。

順を追って説明しよう。

まず対数表示についてはWikipediaでもGoogle先生でも聞いてくれ、と思うが、端的にいうと対数表示では大きい数値に見えるものが、実際の数字としてはあまり大きくないという見え方をする。それは単純に、対数軸の仕組みとして「10と100の差」と「100と1000の差」があたかも等距離のように見えるからだ。

「そんなのにはおれらは騙されねぇぞ」

と考えるのがスタートアップらしいネジの抜け方である。つまり結果的に「際立ってリスクが高いもの」しか気にならない。発生頻度が極めて高いか、重篤度が極めて高いか、もしくはその両方か、だ。ぼちぼちの発生頻度でぼちぼちの重篤度のものは相対的にあまり注目されなくなる。
限られたアセット(時間と金)の中で如何にビジネスやテクノロジーをリードするかということを考えた際にそのような帰結になるのは、その立場に立たされてみればとても納得できる話だ。
DropboxのCEOが
「スタートアップとして生き残りたかったら93%のことにNoと言う覚悟を持て」
と言っていたらしいが、ここで示しているのもそういった類の話なのではないかと思う。

次に「成長分」の話は、要するに言葉で言うとマネージメントをとても楽観的に行うということなのだが、その楽観の力を「どうせ起きない」とか「発生しても何とかなるだろう」という形で作用させるのではなく「ローンチまでに十分な体制を整える」とか「次の資金調達が成立次第採用を強化する」だとか、 「未来に対して我々には対応可能だ」 と考えるための楽観として作用させる。これは当然通常の思考回路の組織には馴染まない感覚であると思う。実際、品質管理のプロセスなどを厳しくかつ有用的に規定しているISO9001などでは「計画性」を重視し、体制の確保と初期段階からの責任者による監視と記録の保全はとても大事な事項として示されいてる。これらについては私もとーーーっても同意見だ。
しかしスタートアップではこのようなリスクの取り方は「あり」とするし、いくつもの綱渡りなマネージメント事項の山からしたらこのような話題は瑣末な一点でしかない。

したがって「成長分」を盛り込み「大胆な取捨選択」をすることでリスクをコントロールする、というのがスタートアップらしいやり方だ。

当然外れた時はそれまで。無残に散ることになるだろう。
それがリスクを取るということだ。
そしてその「発見した落とし穴」は周りで見ていた者たちや自分の未来に対しての礎となる。

スタートアップの精神とは、自らを巨大な実験的エコシステムと共同幻想の一員であると受け入れて(入会無料)その進展のために個人のリスクを尽くすことである。

九頭龍 'kuz' 雄一郎 エンジニア/経営者, 日本の大企業からシリコンバレーのスタートタップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。 株式会社ClayTech Founder/CEO, 監査役DX株式会社 Co-founder/CTO, 株式会社スイッチサイエンス取締役, 株式会社2nd-Community取締役, 東北大学客員教授, 東京工業大学非常勤講師, 武蔵野美術大学非常勤講師, 他複数社の顧問など。

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