誰がオーナーなのかハッキリさせとけよ

By | October 2, 2019

技術シーズを元に立ち上げたアーリーステージの会社にありがちなケースとして

「誰がプロジェクト・プロダクトのオーナーなのかが話を聞いててハッキリしない」

という状況によく出くわす。

理想的なのは
・経営判断を行う資質を持ち、かつそれに対して責任を持てる人
・一番株を持っている人
・コミットメントが最も高い人
・業界情報や顧客ニーズに詳しい人
が同一人物であることだ。 ある程度成熟した企業においては必ずしも同一ではないことが多いが、初期の、特にスタートアップにおいてはそれらは同一であることが著しく望ましい。 また逆の文脈としては、スピンアウト案件が上手くいかないときは上記のいくつかの事項(特に株)があくまで親会社に握られているため現場が十分なパフォーマンスを発揮できない、というのはよくある話だ。

技術シーズを元に立ち上げた会社の場合、色々なパターンがあるだろうが「業界情報や顧客ニーズに詳しい人」は大抵でその技術を綿々と積み重ねてきた人そのものだろう。(例えば研究者の場合、ひとつのテーマに5年、10年、場合によっては一生付き合うものなので必然業界に精通し人脈も深くなる)

また経営者に必要な「能力」というものはステージによって変わる。「資質」ではなく「能力」であることに気をつけて欲しい。 ここで言う資質はもともと備わっていたり長年で養われた性質のことであり、能力は単純に「その人は何ができるか」だ。

売り上げがそれなりの規模になってきたら社長に求められる能力のメインはファイナンスの戦略を立てることもしくはその領域において正しい判断をすることになってくる。どのように資金を調達し、投資に回し、そして回収するサイクルを構築し、レビューし、改善を重ねていく。また人脈を構築し、大企業とも対等に交渉し、自社に優位なディールを取り付ける交渉力なども重要だろう。

しかしことアーリーステージにおいて経営者に求められる能力は少々異質だ。
– 誰よりも速く的確に種々の事象に対処できる判断力
– 仮に独りになったとしてもプロジェクトを進めることができる馬力
あなたが所属している会社がまだアーリーステージでかつ自らがオーナーシップを取る立場ではないにも関わらず
「あれ?これに全部あてはまるのっておれじゃん」
ともし思ったとしたら、あなたがいる会社の組成はすでに失敗している。

まだ手遅れでなければ組成を正すことから始めよう。
もし手遅れならさっさと離脱しよう。

また「次点」という感じでNice to Haveな話をあえて付け足すと
– 他人をその気にさせて巻き込むチカラ(詐欺力w)
– 「これは自分がやるしかない」というある種の強迫観念に身を委ねる妄想力
これらを持たずに十分過ぎるほど優秀なスタートアップ経営者は当然多く存在するが、とはいえ、その使用の如何によらず持っていると好ましいチカラだ。

私もある程度おっさんの域に差し掛かり、不幸な立場に置かれる人を見ることもそれなりに経験してきた。 その中でも、とあるクラスタの人間はみな「搾取」にあっている。
搾取状態というのはリスクとリワードのバランスが理不尽に偏っている状態だ。 その典型が過剰な責任を押し付けられている割には十分な権限や見返りが与えられていないパターンであり、正直これが大半だ。
もしこれを読んでいるあなたがサラリーマンであったとしたら、ひとつよく効く処方箋を出したい。本来、あなたの立場がサラリーマンであれば実際は「責任」なんて言ってもたかが知れているわけであって、自由度の方が相対的には遥かに高い。必要なことはそれに「気づくこと」だけだ。それさえ正しく認識できればめでたしハッピーサラリーマンライフが待っている。
しかし、ことスタートアップにおいては、キャリアや収入、時間、ライフスタイル、場合によっては全てを犠牲に取り組んでいる中で、その実態が搾取であったとしたらなんと嘆かわしいことか。 そんな会社・組織・システム・プロジェクトは結局うまく行くわけがないので早急に損切りするしかない。残念ながら。

したがってそうならないための重要なポイントは

会社の立ち上げをなぁなぁにしない

ということ。とはいえダラダラ話し合いを重ねてスピード感を失うのは誰にとっても本意ではないだろうから、冒頭に示した「同一であるべきこと」を誰かがバシッと取ってしまうのが最も好ましい。
半々とかにしない。6:4でもイマイチ。9:1とか10:0で取ってしまう。それによってオーナーシップが明確になる。つまりその際に1や0に回る覚悟をした者は以後常に「脱出スイッチ」を片手に進む覚悟を固めるわけだ。

ここでもし綺麗事を言うオーナーがいたら将来の「搾取」の兆候と言ってよい。
曰く「我々は平等なチームだ!」とかね。

それよりも
「これはおれの会社だから本当に切羽詰まった際の最終判断は申し訳ないがおれが行う。ひょっとしたら独断的に映る行動もあるかも知れない。それに不満のあるやつは今のうちに抜けてくれ。だけどおれのことを信じてくれるやつはぜひ残って手を貸して欲しい」
とハッキリ言う経営者の方が、まだ、信頼できるね。私なら。

不当に失われているオーナーシップを正しくあるべき姿に戻す有効な方法を私は知らない。おそらくケースバイケース過ぎて誰も定式化された解答は持っていないように思う。大抵の場合は埋められない認識の齟齬があるものだ。
齟齬が発生する部分はリスクとリワードの両面。
「この程度はリスクなんて呼ばない」「このくらいのリワードで破格の対応だ」「この権利を渡すなんて意味がわからない」「このくらいの責任を負うのは当たり前だ」
通常これらは彼らの過去の経験(過去に彼らとそのくらいのリスクとリワードで合意してくれた輩たち)や個人の価値観に大きく依存している。 長い時間をかけてじっくり説得したり彼らに他所の世界を見せたり、苦慮を重ねた末に意見を変えてくれる可能性はゼロではない。
しかし、そのような奇跡を気長に待つには我々の人生は短過ぎる。


> Author Profile
九頭龍 雄一郎 Yuichiro “kuz” Kuzuryu
エンジニア/経営者
日本の大企業での新事業立ち上げからシリコンバレーのスタートアップまで多種多様な千尋の谷に落ちた経験を持つ。
株式会社ClayTech CEO, Founder
株式会社EYS-STYLE 取締役
株式会社144Lab 取締役
東北大学客員教授
その他複数社の技術顧問、アドバイザーを務める
https://twitter.com/qzuryu
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